産後にPMS(月経前症候群)かも?と思ったらぜひ相談を【産婦人科医インタビュー】

 専門家監修
公開日:2019/12/23
産後にPMS(月経前症候群)かも?と思ったらぜひ相談を【産婦人科医インタビュー】
監修
粒来拓(つぶらいたく)先生
よしかた産婦人科分院 綱島女性クリニック院長

今回のドクターズインタビューは、神奈川県横浜市にあるよしかた産婦人科分院綱島女性クリニックの粒来(つぶらい)拓先生です。産後のママの体の変化や、月経前の不調への対応などについてお話を伺いました。

産後のPMSについて知ってほしい

産後、「イライラしてしまう」「精神的につらい」などの不調を訴えるママがいます。先生のクリニックでは、産後の不調を理由に受診するママは多いですか?

先日、産後8カ月のママが「どうしてもイライラして、それを子どもにぶつけてしまう。こんな状態ではよくないと思って……」と言って、私のクリニックに来ました。子どもをかわいいと思う一方で、「精神的につらい」と訴えるママはとても多いと感じます。産後はホルモンバランスが急激に変化し、情緒不安定になりやすくなります。授乳による睡眠不足に加え、赤ちゃんのお世話や家事に追われて、ママたちは自分の時間がありません。しかも、精神的につらいのに、それをだれかに打ち明けることなく、自分ひとりで抱え込んでしまいがちです。

今、お産の施設でも、「産後うつ」などの周産期のメンタルヘルスに積極的に取り組まれるようになってきました。なかでも、私がママたちに知ってほしいのは、産後のPMS(月経前症候群)です。月経がもどってから、月経前にイライラしたり眠れなかったり、情緒不安定になったりするようだったらPMSの可能性があります。

そもそもPMSの原因はなんでしょうか?

PMSの原因にはいくつかの要因がありますが、なかでも女性ホルモンの変動が関わっていると考えられています。周期的に排卵のある女性の場合、排卵から月経までの期間(黄体期)にエストロゲンやプロゲステロンという女性ホルモンが多く分泌されます。このプロゲステロンは受精卵が子宮に着床するために必要なホルモンですが、身体全体に様々な負担をかけてしまいます。日本では、月経のある女性の約70~80%が月経前に何らかの症状があり、生活に困難を感じるほどの強いPMSを示す女性の割合は、5~6%程度という報告があります。

妊娠前はPMSの症状はなかったのに、産後PMSになることがあるのですか?

妊娠前は、PMSの症状がなかったからといって油断できません。妊娠中はエストロゲンやプロゲステロンが盛んに分泌されます。ところが産後になると、ホルモンは急降下。そして、産後半年から1年ほど過ぎると再び周期的な排卵が起こり、月経が再開します。つまり、妊娠・出産を経て、女性ホルモンの分泌は、まるでジェットコースターのように高低差があるわけです。さらに妊娠出産に伴って体重や循環血液量の急激な変動があります。お産により、いろんな形で身体に負担がかかるわけです。産後にPMSになったり、妊娠前からのPMSが悪化したりすることは十分考えられます。

どのような症状があったら受診したほうがいいのですか?

PMSは、情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下、睡眠障害などの精神的な症状のほか、めまいや倦怠感、頭痛、腰痛、むくみなどの身体的な症状が現れることもあります。月経が始まる10日間くらい前から症状が強く、月経開始とともに楽になるというのが特徴です。先述したように、月経のある女性の約70~80%が広い意味でのPMS症状を有するといわれますが、つらいと感じ、生活に支障が出ているようなら受診をおすすめします。

PMSには漢方薬などの有効な治療法がある

PMSの治療法にはどのようなものがあるのですか?

PMSは、気分転換やリラックスできる時間をつくったり、自分が心地よいと思えるセルフケアでストレスを発散させたりすると、症状が改善されることがあります。
月経の記録をつけていただくことも有効です。先ほど述べた通り、月経の10日前くらいからがつらい時期。人はつらいことも、心構えができているとなにかと対応できるものです。カレンダーで前もって「この時期はつらくなりやすい時期」と認識をしておくだけでも有効です。この時期には「予定を詰めすぎない」「つとめてリラックスできる状況をつくる」、場合により「家族など周りにサポートを頼む」、もっといえば「イライラしてしまうかもしれないことを宣言しておく」など、自分だけでなく環境を整える視点も大事ですね。

また、薬による治療法には、次の3つがあります。

排卵を抑える薬
まず、排卵を抑える薬。PMSは、排卵が起こり、女性ホルモンが大きく変動することが原因なので、排卵を止めることで症状の改善が期待できます。低用量経口避妊薬(低用量ピル)や低用量エストゲン・プロゲステロン配合薬などを服用して女性ホルモンの変動をやわらげます。ピルに対して抵抗感のある方もいるかもしれませんが、避妊薬という側面だけでなく月経に関連する症状のコントロール薬でもあります。PMSだけでなく月経痛や過多月経、月経不順などが楽になります。安全性は高く、服用している間だけ一時的に排卵を止めるものなので、服用を止めればすぐに元にもどり、その後の妊娠に影響することはありません。

症状を抑える薬
次に症状を抑える薬です。頭痛・腰痛などの痛みには鎮痛剤、むくみには利尿剤、イライラや抑うつ、不眠などの症状には精神安定剤なども考慮されます。

漢方薬
ピルや精神安定剤にはハードルを感じる方が多い中で、比較的気軽に使用できるものに漢方薬があります。当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遥散(かみしょうようさん)、抑肝散(よくかんさん)または抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)などが有効とされています。

私のクリニックでは、患者さんと相談したうえで、漢方薬を処方することがよくあります。なかでも抑肝散加陳皮半夏をよく用います。これは、もともと赤ちゃんの夜泣き、疳(かん)の虫に使われていた薬です。母児同時内服といって、夜泣きで落ち着かない赤ちゃん、イライラしてしまうお母さん、ともに服用することで、親子でよく眠れるようになるとして用いられていた漢方です。精神的な安定を促す作用があり、授乳中のママでも安心して服用していただけます。肩こり、めまい、むくみなどの症状がある場合は、当帰芍薬散を加えることもあります。

ママのなかには、イライラして子どもにあたり、そのことで自分を責めてしまう方が少なくありません。受診されたママには、まず「よくがんばっていますね」「妊娠・出産でホルモンが大きく変化しますから、あなたが悪いわけではないですよ」「よく受診してくださいました」とお話します。それを聞いて、思わず涙を流される方もいらっしゃいます。常に赤ちゃんを守らなければいけないと、神経を張り詰めているのでしょう。産後のママは、自分の体のことを後回しにしがちですが、体の不調や精神的な不安があったときは、我慢しないで産婦人科を受診してほしいですね。
私のクリニックでは、よしかた産婦人科で出産される妊婦さんの妊婦健診を行っていますが、産後に関しては出産した場所は関係なく体調のサポートをしています。医師に相談するだけで、イライラや抑うつなどの症状が軽くなったという方も数多くいらっしゃいます。気持ちが安定すれば、育児にも前向きになれますよね。

パパと一緒に育児を楽しんで

パパはどのようなことに注意すればいいでしょうか?

パパにはまず、妊娠・出産で女性の体には大きな負担がかかっていることを知ってほしいと思います。妊娠中は、女性ホルモンだけではなく、体内を流れる血液の量も増加します。さらに、呼吸の回数も増え、脈拍も速くなります。これらが産後になると急に元の状態にもどるのですから、疲れやすくなったり、精神的に不安になったりするのは当然のことです。本来、子育ては夫婦で行うものですから、ママの体調を理解して、しっかりサポートしていただきたいです。

ママはパパに対してどう接すればいいのかも、アドバイスをお願いします

ママは妊娠・出産・育児を通して、生活も気持ちも自然と「母親」になっていきます。たとえば、妊娠後期に入ると、「眠れなくなった」という妊婦さんが多くなりますが、これには理由が4つあります。体が疲れるから、おなかの中で赤ちゃんが動くから、大きくなったおなかに膀胱が圧迫されてトイレが近くなるから。そして4つめは、産後の授乳に合わせて、睡眠のリズムが短時間になってくるからといわれています。赤ちゃんのリズムに寄り添うようになり、睡眠の質が変わることで短時間でも休めるようになるそうです。つまり、妊娠中から身体的にも子育ての準備が始まっているわけですね。

一方、パパはママよりも親としての意識が芽生えにくいものです。ママは赤ちゃんが夜中に泣くとすぐ起きられる身体になるのに、パパはそうした体の変化がありません。生物学的に「夜中に起きられる能力」が低いのです。一生懸命育児をしているママにとって、「パパがストレス源だ」という方もいると思いますが、上手にリードして、パパと育児を楽しんでください。

●よしかた産婦人科分院 綱島女性クリニック

院長粒来拓。よしかた産婦人科(本院・横浜市港北区)で分娩希望の方の妊婦健診を行っています。また、月経痛や月経に関連した諸症状、思春期・更年期の女性の悩みなどに親身に寄り添った医療を提供しています。

監修
粒来拓(つぶらいたく)先生
よしかた産婦人科分院 綱島女性クリニック院長
2007年浜松医科大学医学部卒業。横浜市大産婦人科勤務後、2018年より現職。横浜市大センター病院女性ヘルスケア外来担当医兼任。妊娠中から産後まで、妊婦さんのさまざまな悩みに応えてくれるドクターです。

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