【児童虐待防止法改正】虐待の加害者の半数は実母。子供をたたかないためにできること

 専門家監修
公開日:2019/10/10
【児童虐待防止法改正】虐待の加害者の半数は実母。子供をたたかないためにできること
監修
高祖常子
NPO法人子どもすこやかサポートネット副代表理事

虐待による痛ましい事件が起き続けている昨今、児童虐待防止法が改正され、体罰禁止が明記されることになりました。虐待はちょっとしたきっかけで誰にでも起こりえること。その実態と正しい対応をぜひ知っておきましょう。

児童虐待への対策強化のため『児童虐待防止法』が改正

児童虐待防止法とは、子供への虐待を防止する目的で制定された法律。今年6月、親による子供への体罰禁止が盛り込まれた改正児童虐待防止法が、参院本会議で可決・成立。来年4月から、施行されることになりました。

昨年から痛ましい子供の虐待死が相次ぎ、対策強化を求める声が高まったことを受けたもの。親権者(親だけでなく、里親、児童福祉施設長も含む)が「しつけ」の名目で子供に体罰を与えることは禁止と明文化されています。

これまでに起こった児童虐待事件の一例

■2018年1月(東京・目黒)船戸結愛ちゃん(5才)の事件

5才の長女に暴行を加えてけがをさせ、死亡させた事件。警視庁は父親を傷害の疑いで逮捕。日常的に暴行を加えるほか、真冬のベランダにはだしで放置したり、食事を与えないなどの虐待を行っていた。結愛ちゃんが書いたとされるノートの内容は、事件が大きく報道されるきっかけとなった。

■2018年4月(千葉・野田)栗原心愛ちゃん(小4)の事件

自宅で10才の長女に冷水シャワーを浴びせるなどの暴行を加えたとして、傷害の疑いで父親を逮捕。長女は自宅で死亡が確認された。

また、長女は小学校で行われたアンケートに父親から暴力を受けていると記入。児童相談所が一時保護するが、父親がこのアンケートを入手。虐待のリスクが高くなったにもかかわらず、長女を自宅に戻していた。その後、母親も逮捕され、多くの虐待が判明した。

■2019年6月(北海道)池田詩梨ちゃん(2才)の事件

2才の女児に暴行を加え、頭や顔にけがを負わせた疑いで、母親とその交際相手が傷害容疑で逮捕された事件。長女は搬送先の病院で死亡が確認された。

死因は衰弱死で、体重は同年齢の子供の平均を大きく下回る10キロ未満。司法解剖では強い暴行を受けたあとも見つかった。児童相談所はこれまでに3度の虐待通告を受けていたが、母親と面会することなく事件が起こってしまった。

■2018年3月(東京・足立)生後2カ月女児の事件

生後2カ月の長女に暴行を加えてけがをさせたとして、警視庁は父親を傷害の疑いで逮捕。「泣き声がうるさくて眠れず、感情が抑えきれずにやった」などと容疑を認めた。女児は3日後に病院に搬送され、死亡した。

■2017年10月(埼玉・桶川)1才男児の事件

1才1カ月の三男に十分な食事を与えず衰弱死させたとして、保護責任者遺棄致死の疑いで両親を逮捕した事件。発見当時、三男の体重は3.8キロで、同年齢の標準体重の3割程度。身長も平均を下回っていた。

虐待のあとはなかったが、「子供が泣いたらミルクを与えていたが、泣かなければ与えていなかった」ことが判明した。

たとえ「しつけ」のためでも、親が体罰を与えることは禁止に

日本には、子供に対して「しつけのためには、体罰もしかたない」などという考え方があります。

しかし「言うことを聞かなければたたく・どなる」という風に接していると、子供は暴力を学び、学校などで思いどおりにならないことがあったとき、自分も友だちに暴力をふるうようになったり、大人になればDVに発展したりする可能性があります。

そこで、私たちは以前からしつけに体罰は不要と考えて、「体罰はやめよう!」と訴え活動してきました。日本でもやっと児童虐待防止法が改正され、たとえ「しつけのため」という理由でも、親がわが子に体罰を与えることは禁止になります。

海外では体罰禁止で体罰だけでなくいじめも減少したケースも

海外では、スウェーデンが1979年に世界で初めて体罰禁止を法制化しました。法律が施行されると、スウェーデンでは体罰が減っただけでなく、子供たちの間のいじめも減少したそうです。

日本でも、今回の法改正により「体罰はいけない」という認識が広がり浸透すれば、暴力そのものが減ることも期待できます。

「しつけ」と「体罰」は明らかに違うもの

日本ではこれまで、しつけと虐待・体罰との境界がはっきりしていませんでした。しかし、しつけと虐待・体罰は明らかに違います。

しつけとは、子供が自分の頭で考え判断し、自立して生きていけるように、親や周囲が手助けやアドバイスをすることです。たたいたりどなったりして恐怖を与え、暴力でコントロールすることではありません。

体罰は子供の脳に大ダメージ。心身の発達も阻害します

実際に脳の研究によって、子供のころに虐待されたり体罰を受けて育ったりすると、脳に深刻なダメージを受けることがわかってきました。

学習や記憶、感情のコントロールをつかさどる前頭前野や、声や音を知覚する聴覚野が変形してしまうのです。その結果、子供はキレやすく攻撃的になる、反社会的な行動が増える、といった様子が見られるようになり、それが大人になっても続く傾向があると考えられています。

また、虐待を受けていると、いつたたかれたりどなられたりするかわからないため、子供は常に緊張を強いられた状態で生活することに。親の顔色をうかがい、自分で考えたり伝えたりすることができなくなるので、心の成長が阻害されてしまいます。

このように、体罰は子供の心身に悪影響しかないことを知っておきましょう。

虐待の半数以上は、実の母親によるもの

冒頭でも紹介していますが、報道で取り上げられるような児童虐待の事例を見ていると、虐待をしているのははたいてい父親、または母親の交際相手が多いという印象を受けるかもしれません。

しかし、厚生労働省の報告によると、例年、虐待をした人の5~6割が実の母親なのです。父親が虐待をしているケースは全体の1~3割、母親の交際相手は数%にすぎず、母親が虐待しているケースが圧倒的に多いのです。

また、虐待で死亡する子供の数は、毎年約80人もいます。そのうち、約8割が3才以下の乳幼児です。日本では、乳幼児期に育児をしているのはおもに母親で、育児の大変な時期に虐待が起こりやすいことが読み取れます。

原因は親のストレス。その矛先が子供たちに向いてしまう

たたいたりどなったりしてしまう背景にあるのは、おもに親のストレスです。

仕事の不満、経済的な苦しさ、睡眠不足、などさまざまな理由でたまったストレスのはけ口を子供に向け、感情を爆発させてしまうのです。また、子供の対応に疲れてネグレクト(育児放棄)をする親もいます。

虐待をするのは極端な例、と思うかもしれません。でも、ママも疲れなどからイライラしているときに赤ちゃんが泣きやまない、離乳食を食べない、言うことを聞かない、などが重なると、つい手が出たりどなったりしてしまうこともあるでしょう。これがエスカレートすることもあるのです。

イライラの爆発は、さまざまな手立てで解消を

もし、赤ちゃんに向けて感情が爆発しそうになったときには、

・深呼吸する
・ゆっくり数をかぞえる
・窓を開けて外の空気を吸う

などを試して。自分なりにクールダウンする方法を見つけておきましょう。さらに、ママやパパが、ストレスをためずにすむような環境をつくることも大切です。

・パパと日ごろからよく話し合って、家事・育児で大変なことは分担する。

・平日は、できるだけ外へ出たり、誰かと話すなど気分転換を心がける。

・育児の悩みは、行政の相談窓口や、子育て相談を受け付けている保育園や幼稚園などを利用する。

・ときには、赤ちゃんを誰かに預けて、リフレッシュする時間をつくる。

・時間の制限がある中で何かするときには、「前もって準備する」「早めに動き始める」などを意識する。

など、できることから取り入れてみましょう。

もし「虐待かも?」と思う状況に出くわしたら……

周囲でもし、子供をたたいているような状況を見聞きした場合は、相手のママと親しいなら「どうしたの? よかったら話を聞くよ」などと声をかけてあげてください。

声をかけにくいときや親しい関係にないときには、地域の児童相談所や家庭支援センターに連絡するか189番(児童相談所全国共通ダイヤル)に電話しましょう。

これは重要な情報提供ですから、後ろめたく思う必要はありません。たとえ虐待をしていなくても親自身が子育てに悩んでいるケースが多いからです。

情報提供があれば、行政が動いて相談に乗ったり支援したりすることができるので、虐待の防止につながります。

子供は、安心できる環境で愛情を受けて育てられる権利があるもの。そうでないとき、「子供の体や心が傷ついているなら、私が動く」という気持ちを誰もが持っていてほしいと思います。

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最後に忘れないでほしいのは、赤ちゃんは別人格だということ。自分とは違うのですから、思いどおりにならないのは当たり前。「こういう反応をするのね」などと、ちょっと困ったこともおもしろがれるといいですね。

それに、赤ちゃんは発達途中。赤ちゃんの成長・発達の過程や見通しを知っておくと、「遊び食べをする」「何でもイヤと言う」なども、一時期のこと、と大らかに受け止められるでしょう。

こうしたさまざまな工夫により、忙しいママも毎日気分よく過ごし、心に余裕を持って赤ちゃんに接することができるといいですね。

そうすれば、子供がすこやかに育まれるだけでなく、いい親子関係を築くことにもつながると思っています。

取材・文/村田弥生
※この記事はベビモ2019秋冬号「子育て社会部が行く!」より加筆・再編集したものです。

監修
高祖常子
NPO法人子どもすこやかサポートネット副代表理事
子育てアドバイザー。資格は保育士、幼稚園教諭2種ほか。各種NPOの理事などを務め、子育て支援を中心とした編集・執筆ほか、全国で講演を行っている。著書に『感情的にならない子育て』(かんき出版)ほか。3児の母。
https://www.tokiko-koso.com/

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