産後に尿もれが起きる原因、治し方は?子宮脱は関係ある?【産婦人科医監修】

 専門家監修
公開日:2019/10/09
更新日:2019/10/10
産後に尿もれが起きる原因、治し方は?子宮脱は関係ある?【産婦人科医監修】
監修
松峯寿美先生
東峯婦人クリニック名誉院長

産後の尿もれは、子宮や膀胱、直腸を支えている〝骨盤底筋(こつばんていきん)″が妊娠・出産でダメージを受け、緩んでしまったのが原因。ひそかに悩んでいる人が少なくありません。産後に尿もれが起こりやすい理由、尿もれの予防&改善に効果的な骨盤底筋エクササイズのやり方について、産前産後ケアの第一人者として知られる産婦人科医の松峯寿美先生に聞きました。

産後にありがちな尿もれの症状は? 

尿もれとは、自分の意思とは無関係に尿がもれてしまう症状。おなかに力を入れたはずみにもれてしまう〝腹圧性尿失禁″と、「トイレに行きたい」と思った瞬間に我慢できずにもれてしまう〝切迫性尿失禁″がありますが、産後のママたちに起こりやすいのは〝腹圧性尿失禁″です。

<こんな場面で尿もれしやすい>

・くしゃみや咳(せき)が出た瞬間
・立ち上がった瞬間
・おなかに力を入れたとき など

尿もれが起きる原因は?

産後に尿もれが起こりやすいのは、妊娠・出産で骨盤底筋が緩んでしまったことが原因。人は〝尿をある程度ためてから出す″のを自分の意思でコントロールしていますが、骨盤底筋が緩むと尿道口をキュッと締める力が衰えて、自分の意思とは無関係に尿が漏れてしまうことがあるのです。

骨盤底筋の緩みが尿もれを招くのはどうして? 

骨盤底筋とは、骨盤の底で子宮や膀胱、直腸を支えているプレート状の筋肉。自転車に乗ったときにちょうどサドルにあたる部分にあり、ハンモックのように伸縮自在で、弾力性に富んでいます。

そして、この骨盤底筋には腟、尿道、肛門という3つの穴の開け閉めをコントロールする役割があります。つまり、私たちが尿意や便意を我慢したり、排せつをコントロールできるのは、骨盤底筋の筋力のおかげというわけ。

ところが、妊娠中は大きな子宮を支えるために骨盤底筋に負荷がかかりやすく、経腟分娩の際には直径10㎝もの赤ちゃんの頭が腟口を押し広げて出てくるため、骨盤底筋の筋肉や、周囲のじん帯が一時的にダメージを受けてしまいます。そのため、尿道口を締める筋力が衰えて、尿もれが起こりやすくなるのです。

難産だった人、2人以上を経腟分娩している人は?

とくに難産で出産に時間がかかったり、出産時に産道が傷ついてしまったりすると、骨盤底筋が断裂して、尿もれしやすくなります。

また、2人以上を経腟出産した人も、赤ちゃんが通り抜けた回数が多いぶん、骨盤底筋が緩みやすい傾向にあります。出産回数が多い人はお産が早く進むケースが多いですが、それは産道が開きやすいということ。加えて、お産を重ねるたびに骨盤底筋や腟が緩む傾向にあります。

上の子がいると、抱っこせざるを得ないため、妊娠中も産後も骨盤底筋に負荷がかかってしまいがち。上の子を抱っこするときは、できるだけ座って抱っこするようにしましょう。おなかに腹帯を巻いて抱っこすると、骨盤が支えられて、子宮や膀胱などの内臓が押し下げられるのを予防できます。

帝王切開でお産した場合は?

帝王切開の人も、妊娠中は骨盤底筋に負荷がかかる状態ですが、赤ちゃんが骨盤底筋と腟口を通り抜けていないぶん、経腟分娩の人にくらべてダメージは軽度です。そのため、産後の尿もれに困ることはあまりないでしょう。

いったん緩んだ骨盤底筋はもとに戻るの?

妊娠、出産で緩んだ骨盤底筋はゆっくりと回復していきます。産後の肥立ちの時期(産後100日間)に重いものを持つなどして動きすぎると、骨盤底筋の修復が不完全な状態になり、尿もれしやすい状態が続くかもしれません。難産だった人、出産回数が多い人は注意しましょう

産後の骨盤底筋が緩んだままだと、女性ホルモンの分泌がなくなる閉経以降、尿もれが再発するケースが多いのです。将来的なQOL(Quality Of Life:生活の質)を守るためにも、産後の肥立ちの時期に緩んだ骨盤底筋をしっかりと回復させましょう。それには骨盤底筋エクササイズがおすすめです。

尿もれを改善する方法は?

産後の尿もれを改善するには、産後の肥立ちの時期に十分な休養をとりつつ、少しずつ骨盤底筋エクササイズを始めましょう。

産後100日の間に行うのがおすすめですが、産後4ケ月以降の人もあきらめないで試してみてください。骨盤底筋の筋力がアップすると、尿もれを改善する効果があります

まずは足首のエクササイズからスタート

まずはウォーミングアップとして、ベッド上で足首を上下左右に曲げたり、伸ばしたりするエクササイズをしましょう。べッド上で横になったままできるので、産後2日目から行っても大丈夫です。

息を吐くときに腟をキュッと締めるのがポイント

骨盤底筋エクササイズは呼吸と連動して行います。フーッと息を吐くときに、腟まわりをキュッと締め、骨盤底筋が引き上げます。その際、息を吐くことで骨盤底筋を持ち上げ、息を吸うことで骨盤底筋を押し下げる動きを意識しましょう。

注意したいのは、〝吐く″ときに引き上げるイメージを持つこと。押し下げるイメージで息を吐くと、子宮や膀胱を下垂させてしまうからです。

キュッと締めるときに息を止めてしまわないように、フーッと声を出して行うと効果的です。軽度の尿もれであれば、この呼吸法を1~2週間続けることによって改善できます。回数にはこだわらず、毎日行いましょう。

骨盤底筋を引き上げる呼吸法って?

・息を吸うとき

吸った息で肺がふくらみ、横隔膜が押し下げられます。このとき、骨盤底筋も連動して、一緒に押し下げられるイメージを持ちましょう。骨盤底筋をフワッと緩めるように意識して、息を吸います。

・息を吐くとき

息を吐ききって肺がからっぽになると、横隔膜が引き上げられます。このとき、骨盤底筋も連動して、一緒に引き上げられるイメージで、吐くときに骨盤底筋をキュッと締めます。いすに座って行うときは、息を吐くときに腟で座面を吸い上げるイメージで行うと効果的。

あお向けになって、両ひざを立てて呼吸してみましょう

まずはあおむけに寝て、両ひざを立てて深呼吸します。次におしりをこぶし1つ分程度、床から持ち上げてください。このとき、尾骨をCの字を書くように巻き込むイメージで。そのまま息を吐きながら4秒間キープします。回数にはこだわらず、毎日行いましょう。

日常生活で注意すべきことは?

産後は動きすぎないようにする

「産後の経過が良好だから」と、退院直後から動きすぎてしまうと、骨盤底筋の緩みを回復させることができません。経腟分娩の直後は、骨盤底筋の3つの穴である尿道口、腟口、肛門が緩んだ状態。産後は赤ちゃんを産み出すために腟が広がっており、この腟の緩みが尿もれや頻尿にも影響します。

産後100日の産後の肥立ちの期間は、スーパーで買い物する際も、重い荷物を持たないようにしましょう。腹圧をかける姿勢をとるたびに、子宮が本来あるべき位置から下がってきて膀胱や尿道を圧迫するため、頻尿になったり、尿もれしやすくなります。

便秘を悪化させないようにする

産後は便秘しがちな人が多いのですが、便がかたいからと強くいきんだり、便座に長時間座って無理にいきむのはNG。お産で緩んだ骨盤底筋に、さらに負荷をかけることになるからです。

便秘しがちな人は、便通をよくするために食物繊維や乳酸菌をとりいれる食事を心がけましょう。それでも便秘が改善しないときは、産婦人科や内科で便秘薬を処方してもらうといいでしょう。市販薬を使用する場合は、非刺激性成分(酸化マグネシウム)の便秘薬を選んでください。

<便通をよくする食習慣>

・毎日同じ時間に朝食をとって、胃腸を目覚めさせる
・便がかたいのは水分が不足しているサインなので、日中、小まめに水分をとる
・野菜、海藻など、食物繊維が豊富な食品を食べる
・ヨーグルトなど、乳酸菌をとって腸内環境を整える

子宮下垂や子宮脱って、どんな症状?産後になることはある?

〝子宮下垂″とは、子宮が本来の位置から緩んだ腟内に落ち込んでしまうこと。最初のうちは無症状ですが、子宮の一部が腟口から出たり入ったりするのを繰り返すようになり、やがて腟口から出たままの状態になると〝子宮脱″と呼ばれます。

産後の肥立ちの時期に少々無理をしたからといって、子宮下垂や子宮脱になることはありません。ただし、産後の骨盤底筋が緩んだままの状態を放置していると、将来的に子宮下垂や子宮脱になる恐れがあります。

将来的な子宮下垂や子宮脱を予防することはできる?

もちろん予防できます。子宮下垂や子宮脱になる人たちの平均年齢は60~70代。20代~40代でお産したときには他人ごとのように思いがちですが、実は、産後の骨盤底筋の緩みがリスクとなります。骨盤底筋の緩みを放置して過ごしていると、その後、10~20年かけて子宮下垂や子宮脱につながる可能性が高いのです。

女性ホルモンの分泌が止まる閉経後は、骨盤底筋そのものが薄くやせ衰えてしまいます。そのため、支えきれなくなった子宮や膀胱、直腸などが下垂してトラブルを引き起こす心配があるのですが、骨盤底筋は生きている限り鍛えることができる筋肉です。

尿もれの改善とともに、将来的な子宮下垂と子宮脱を予防するためにも、骨盤底筋エクササイズを日課にしましょう

取材・文/Milly編集部
校正/主婦の友社校正室

監修
松峯寿美先生
東峯婦人クリニック名誉院長
東京女子医科大学卒業後、同大学病院に10年間勤務し、「不妊外来」を創設。1980年に東峯婦人クリニックを開業し、女性専門外来の先駆けとなる。2014年より産前産後ケアセンター「東峯サライ」をクリニックに併設。妊娠・出産・産前産後ケア、更年期以降まで、女性の一生をトータルで支える医療を実践。近著に「やさしく知る産前・産後ケア 産婦人科医が教える、ママと赤ちゃん こころとからだ」(高橋書店)など。ママたちの不安や疑問にていねいに応えてくれる先生です。
東峯婦人クリニック公式HP東峯サライ公式HP

あなたにおすすめ

注目コラム