トキソプラズマの妊娠中の症状は?検査方法&予防法は?【産婦人科医監修】

 専門家監修
公開日:2019/09/12
更新日:2019/10/01
トキソプラズマの妊娠中の症状は?検査方法&予防法は?【産婦人科医監修】
監修
楠木総司(くすのき そうし)先生
あらかわレディースクリニック院長

トキソプラズマをご存じですか? 「トキソプラズマなんて、妊娠するまで知らなかった」という妊婦さんや「なんとなく聞いたことはあるけれど、くわしくは知らない」という妊婦さんも少なくないでしょう。また、「もしも自分が感染したらどうしよう?」と、不安な妊婦さんもいると思います。そこで、トキソプラズマに関しての気になるあれこれを産婦人科医の楠木総司先生に教えていただきました。

トキソプラズマって何?

トキソプラズマとはわかりやすくいうと寄生虫の一種で、ミクロンサイズのとても小さな生物です。このトキソプラズマに感染して発症するのが、トキソプラズマ症です。

トキソプラズマは、人間を含むほとんどすべての哺乳類や鳥類に感染します。また、土の中などにもいますので、トキソプラズマそのものはけっして珍しい存在ではありません。

トキソプラズマの感染ルート

トキソプラズマは、動物の体内に寄生しながら成長を続けるのですが、ネコ科の動物以外に感染してもその体内から出てくることはありません。

ところが、ネコ科の動物がトキソプラズマに初めて感染すると、一定期間(数日〜3週間後のうちの約10日間)ふんといっしょにトキソプラズマを排出します。

しかも、ふんにまじって排出されるトキソプラズマは生命力がたくましく、水や土の中で数ヶ月も生き続けられます。つまり、わたしたちの身近にいるネコのふんや、ネコのふんがふれた砂や土、水も感染源になりうるというわけです。

「妊婦さんがネコにさわるのは危険」といわれがちなのは、このような理由があるためです。しかし、すべてのネコが危険なわけではありませんし、ネコを飼っているすべての妊婦さんがトキソプラズマに感染するわけでもありません。

先ほども述べたようにネコのふんにトキソプラズマがまじって排出されるのは、ネコの生涯のうちの数日〜3週間後のうちの約10日間に限られています。

また、ネコを飼っていてもトキソプラズマの感染予防は可能です。その点をよく理解しておきましょう。

トキソプラズマが人に感染する主なルートは口からで、まれに目や鼻の粘膜からも感染することがあります。

たとえば、レアステーキや生ハム、ユッケ、鳥刺し、馬刺しなど十分に加熱調理されていない肉を食べて感染することもありますし、殺菌されていないミルクやそれらを使った乳製品が感染の原因になる可能性もあります。

また、ガーデニングや畑作業の際に土にふれたことがきっかけで、感染するケースもあります。

トキソプラズマに感染したらどんな症状が出るの?

トキソプラズマに感染しても健康な大人であれば、免疫力が正常に働いて症状をほとんど自覚しないか、かぜに似た症状(軽度の発熱やリンパ節のはれ、疲労感)程度でおさまるのが一般的です。

ただし、免疫力が低下した人の場合は症状が重くなるケースもあります。

トキソプラズマに感染すると胎児にどんな影響がある?

トキソプラズマに一度感染すると抗体ができます。そのため、再び感染して発症することは基本的にありません。また、人から人に感染することもありません。ですから、健康な大人であれば、それほど心配する必要はないのです。

けれども、妊娠中あるいは妊娠の数ヶ月前に初めてトキソプラズマに感染した場合は、事情が異なります。胎盤を通して胎児がトキソプラズマがに感染すると、流産や死産につながるケースや「先天性トキソプラズマ症」を引き起こす可能性があるのです。

先天性トキソプラズマ症では、生まれてくる赤ちゃんに次のような症状があらわれることがあります。

・脳の障害:水頭症、脳内石灰化など

・眼の障害:網脈絡膜炎(もうみゃくらくまくえん)など

・その他:精神・運動機能障害、黄疸、貧血、血小板減少、肝機能障害など

また、生まれた時点では症状がなくても、成長するにつれて症状があらわれるケースもあります。網膜や脈絡膜に炎症が起きて視野や視力に異常をきたす「眼トキソプラズマ症」がその代表的な例です。

なお、トキソプラズマに感染してから発症するまでの潜伏期間ははっきりしない場合が多いのですが、一般的には妊娠の6ヶ月以上前の感染であれば、胎児への影響はないと考えられています。

トキソプラズマの検査方法は?

トキソプラズマに感染しているかどうかは、血液検査でわかります。妊婦検診時に血液検査でトキソプラズマ抗体検査を行えば、陰性か陽性かが判明します。

陰性の場合、抗体を持っていないことがわかるので、出産まで感染を予防する必要があります。

陽性の場合、それがいつ初感染したものであるかまではわかりません。そこで、さらにくわしく調べる検査(トキソプラズマIgM抗体検査、さらにトキソプラズマIgG avidity検査)を段階的に行います。

トキソプラズマIgM抗体が陰性であれば、妊娠前の初感染であることがわかります。

一方、IgM抗体が陽性だからといって、妊娠中に初感染したという結論にはなりません。IgM抗体は初感染後でも長期間陽性を示すケースがあるからです。そのため、初感染の時期が妊娠前なのか、それとも妊娠してからなのかが確定できません。

そこで、さらにトキソプラズマIgG avidity検査を行うことで、初感染からどれくらい経過しているかをある程度しぼり込みます。

ほかにも状況に応じて、羊水中のトキソプラズマDNAの存在を調べるなどの検査を行う場合もあります。

妊娠中にトキソプラズマの抗体検査はするべきなの?

先にお伝えしたトキソプラズマの抗体検査は任意で行われるものであり、希望する場合は自費です。金額は1,000〜3,000円程度で、比較的多くの医療機関で受けられるものです。ただし、すべての医療機関が「トキソプラズマの抗体検査をしますか?」と提示するわけではありませんので、検査できることすら知らずに過ごす妊婦さんもいます。また、妊婦さんによっては「任意だったら必要ない」と判断するかもしれません。

でも、よく考えてみてください。あらゆるリスクをゼロにすることはできませんが、トキソプラズマの抗体検査で自分の体の状態を把握しておくことは、状況に応じたベストな選択をするうえで役立ちます。

ですから、妊婦さんは妊娠初期の段階で、トキソプラズマの抗体検査を受けるのが望ましいといえます。また、これから妊娠を考えている人もトキソプラズマの抗体検査を受けることをおすすめします。

なお、トキソプラズマIgM抗体検査、トキソプラズマIgG avidity検査、羊水中のトキソプラズマDNAの存在を調べるなどの検査料金はトキソプラズマ抗体検査とは別で、受けられる医療機関も限られています。

妊娠中にトキソプラズマに初感染した場合の治療法って?

もしも、妊娠中に初めてトキソプラズマに感染したことが判明した場合でも、まったく対策がないわけではありません。

薬を使って、妊婦さんから胎児にトキソプラズマが感染するのを防ぐのです(妊婦さんが服用しても胎児への感染を100%防ぐというわけではありませんが、胎児に及ぼす悪影響を軽減できることは、実証されています)。

妊婦さんのトキソプラズマ初感染治療薬として、従来はアセチルスピラマイシンという薬を用いた治療が一般的でしたが、保険適用されたスピラマイシンが2018年9月に日本で発売されました。これにより、近ごろはスピラマイシンを用いた治療が主流になりつつあります。

治療薬はスピラマイシンのほかにもあり、どの薬をどのタイミングで用いるかはケースバイケースです。

妊娠中のトキソプラズマの予防法は?

日本における妊婦さんのトキソプラズマ抗体保有率は地域によって異なり、2〜10%です。

つまり、「ほとんどの妊婦さんが、トキソプラズマに注意しなければならない」といえます。

トキソプラズマの主な感染ルートは経口感染ですから、基本的に以下のことを行えば、トキソプラズマに感染するリスクを減らすことができます。

食事面での予防法

・肉類は、しっかり加熱調理する(十分に加熱調理されていない肉は、トキソプラズマだけでなく食中毒を引き起こすリスクもあるため、妊娠中は控える)

・生肉(ユッケ、生ハム、馬刺し、鳥刺しなど)は食べない

・ジビエ料理は避ける(抗体の違うタイプのトキソプラズマに感染するリスクを減らす)

・野菜や果物はよく洗う、もしくは皮をむいて食べる

・生肉にふれる際は、手袋を着用する

・調理器具や食器、手指を清潔にする

・キッチンや食卓にペットを近づけない 

環境面での予防法

・自分を含む家族全員が適切な手指の洗浄を行う

・ガーデニングや砂遊びなどの際は手袋を着用し、終わったらしっかり手指の洗浄を行う

・妊娠中は新しくネコを飼わない

・ネコの世話は妊婦さん以外が行う(もし、妊婦さんがふんの始末をしなければいけない場合は、手袋を着用し、処理後はしっかり手指の洗浄を行う。ふんといっしょに排出されたトキソプラズマが感染力を持つまでには約1〜5日かかるため、できるだけすぐに始末をする)

先天性トキソプラズマ症の発生率と症状の度合いは、感染した時期によって異なりますし、妊娠中に初めてトキソプラズマに感染したからといって、胎児が必ず先天性トキソプラズマ症になるというわけではありません。

極度な心配や不安は、体によけいなストレスを与えます。重要なのは、トキソプラズマに関する正しい知識を身につけて予防することです。

それは、すでに抗体を持っている人の場合も同じです。なぜなら、抗体が違うタイプのトキソプラズマに感染する可能性もゼロではないからです。妊娠中もしくは妊娠を望む女性は、トキソプラズマ感染の予防をしましょう。

取材・文/干場綾子
校正/主婦の友社校正室

監修
楠木総司(くすのき そうし)先生
あらかわレディースクリニック院長
平成16年順天堂大学医学部卒業、医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本婦人科腫瘍専門医、日本産科婦人科学会内視鏡技術認定医、日本性感染症学会認定医。2019年6月にオープンした東京・町屋の「あらかわレディースクリニック」は、妊娠・出産だけでなく産後ケアによるママと赤ちゃんのサポートも行っています。また、婦人科疾患に対する腹腔鏡手術も備えた産科・婦人科施設です。

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