トキソプラズマ症は猫と関係がある病気?妊婦さんが注意することは?【産婦人科医監修】

 専門家監修
公開日:2019/09/05
更新日:2019/09/30
トキソプラズマ症は猫と関係がある病気?妊婦さんが注意することは?【産婦人科医監修】
監修
楠木総司(くすのき そうし)先生
あらかわレディースクリニック院長

猫を飼っている人や実家に猫がいる人など、猫と接する機会が多い妊婦さんにとって、猫からうつる病気(特に、トキソプラズマ)は心配の種。でも、過度に神経質になるのも、無防備になりすぎるのもNGです。
マタニティライフを安心して送るためにも、トキソプラズマと猫にどんな関係があるのか、猫と接するときはどんなことに注意すべきかを理解しましょう。

どうして猫に注意しなければいけないの?

「妊娠中は猫との接しかたに注意が必要」という話は、おそらく多くの妊婦さんが耳にしていることでしょう。でも、「その理由はよくわからない」という妊婦さんも少なくないようです。なかには、「飼っている猫はどうしたらいいの?」「猫を飼っている人には近づかない方が良い?」と悩む妊婦さんもいらっしゃいます。

そのような不安や疑問を解決するためにも、一体どうして妊婦さんが猫に注意しなければならないのか、その理由を正しく理解して、安心、安全なマタニティライフを送りましょう。

はじめにお伝えしておきますが、猫を飼っている人と猫を飼っていない人で、トキソプラズマ症の発生率に差があるという結果は認められていません。ですから、「猫を飼っていると危ない」というわけではありませんし、「猫を飼っていないから安心」というわけでもありません。

「妊娠中は猫との接しかたに注意が必要」とされる理由は、猫とトキソプラズマが密接に関係していることにあります。そして、そのトキソプラズマに妊婦さんが初感染した場合、胎児に悪影響を及ぼし、先天性トキソプラズマ症を起こす可能性があるのです。

しかし、すべての猫やすべての妊婦さんにリスクがあるわけではありません。また、先天性トキソプラズマを予防するためには、猫以外にも注意すべきことがあります。その点について、詳しく説明していきましょう。

トキソプラズマ症とは? 

トキソプラズマ症とは、トキソプラズマという目には見えないほどの小さな原虫が原因で引き起こされる病気です。原虫とは、わかりやすくいうと単細胞の寄生虫のことです。

トキソプラズマの形態と感染経路について 

トキソプラズマそのものは決して珍しい存在ではありません。数ミクロンとあまりに小さいため、目にすることができないだけです。

たとえば、食肉用の動物である豚や鶏、牛、馬、羊、猪や鹿、鯨の体内にもいますし、私たちの身近にいるペットの犬や猫、鳥類などにも感染する可能性はあります。また、土の中でも生きられるため、庭や畑、公園の砂場にも存在します。

トキソプラズマの感染経路

トキソプラズマはたいていの哺乳類や鳥類に感染します。人間も例外ではありません。人間への主な感染経路は口からで、まれに目や鼻の粘膜から侵入する可能性もあります。その感染源になるのが、トキソプラズマが混在した生肉や猫科動物のフンです。

さすがに、豚肉を生で食べる人はいないと思いますが、生ハムやレアステーキは抵抗なく口にできるのではないでしょうか。しかし、妊娠中もしくは妊娠の約半年前は食べないようにしましょう。これらの十分に加熱処理されていない食肉には、トキソプラズマに感染するリスクがあります。

トキソプラズマは猫を介して繁殖する

ところで、「生の肉を食べると、トキソプラズマに感染するかもしれないというのはわかるけど、猫科動物のフンに感染のリスクがあるのはなぜ?」と思われるかもしれませんが、それは、トキソプラズマの繁殖方法と関係があります。

トキソプラズマは、動物の体内に寄生しながら成長しますが、猫科の動物以外に感染してもその体内から出てくることはありません。しかし、猫科の動物に感染したときに限っては、フンに混じって排出されます。この時のトキソプラズマの形態が、「オーシスト」と呼ばれるトキソプラズマの卵のようなものです(オーシストについては、この後詳しく説明します)。

しかも、フンに混じって排出されるオーシストは生命力がたくましく、水や土の中で数ヶ月も生き続けられます。
つまり、私たちの身近にいる猫のフンや猫のフンが触れた砂や土、水も感染源になり得るというわけです。

トキソプラズマには3つの形態がある

トキソプラズマは、以下にあげる3つの形態を経ながら成長し、形態ごとに感染力が異なります。
ちょっとややこしいのですが、この点を理解しておくと、トキソプラズマの感染予防に役立ちますし、不安も軽減されると思います。

トキソプラズマ原虫トキソプラズマ原虫
(出典:国立感染症研究所ホームページ)

・オーシスト 

オーシストとは、トキソプラズマの卵のようなもので、とても丈夫な構造をしています。そのため、一般的な消毒薬で死滅させることはできません。さらに厄介なことに、水中や土中で、数ヶ月間生き延びることができます。
そんなオーシストも熱には弱く、70℃で2分または90℃で30秒の加熱で死滅します。

オーシストは、猫(正確には、猫以外の猫科動物も含まれますが、ここからはわかりやすく「猫」と表記します)の小腸内で作られ、フンに混じって排出されます。排出されたオーシストは、1日〜2日で感染力をもちます。

オーシストを排出するのは猫だけで、それ以外の動物から排出されることはありません。「妊婦さんは猫と接する際に注意が必要」とされるのは、そのためです。

猫のフンにオーシストが混じって排出されるのは、ある一定の期間に限られています。それは、猫がトキソプラズマに初感染してからだいたい数日〜3週間とされています。トキソプラズマが、卵を外界に撒き散らすことができるチャンスは、猫の一生のうちでこの期間のみなのです。

・タキゾイド

タキゾイドとは、オーシスト中にいた虫が成長したものです。卵から虫がかえった状態をイメージするとわかりやすいでしょう。

タキゾイドは、宿主(トキソプラズマに感染した生物)の体内で、活発に増殖します。
タキゾイドは、高温にも低温にも弱く、胃酸でも死滅します。そのため、口から入っても感染に至りにくいとされています。
ただし、目や鼻の粘膜や外傷から感染するケースもあり、注意が必要です。

・シスト

タキゾイドが集まって、球状の塊に形成されたものがシストです。この段階になると、増殖のスピードは緩やかになります。

シストは4℃なら数ヶ月、室温でも数日生存できます。また、丈夫で厚い壁に包まれており、シストと同様で一般的な消毒薬では死滅しません。ただし、56℃で15分の熱処理や-20℃24時間で、不活性化が可能です。

トキソプラズマ症の症状は?

HIVなどに感染し、免疫機能が正常に働かない人がトキソプラズマに感染した場合は、脳炎や肺炎を引き起こし、致命的なダメージを与えることがあります。

一方、健康な大人がトキソプラズマに感染した場合は、免疫機能がはたらくため、自覚症状も無く過ごすケースがほとんどです。人によっては、倦怠感や筋肉痛、発熱、リンパ節が腫れるなど、風邪をひいたときのような症状が起こることもありますが、重症化することはめったにないとされています。

また、トキソプラズマに一度感染すると抗体ができます。そのため、再び感染しても発症することはまずありません。
ですから、多くの人にとってトキソプラズマは、それほど危険な存在ではないと言えます。

ところが健康な大人であっても、妊娠中及び妊娠の数ヶ月前の人にとってトキソプラズマはとても厄介な存在です。
なぜなら、トキソプラズマに感染したことのない人が妊娠中に初めて感染した場合、胎盤を通して胎児にトキソプラズマが感染し、先天性トキソプラズマ症を引き起こす可能性があるからです。

ちなみに、日本における妊婦さんのトキソプラズマ抗体保有率は、地域差があり、2〜10%です。ということは、「ほとんどの妊婦さんが、トキソプラズマに注意しなければならない」のです。
なお、抗体の保有率に地域差が生じる背景には、食習慣をはじめとする生活環境の違いが関係しているとする研究があり、生肉を食べる習慣のある地域ほど発生率が高い傾向にあります。

妊婦さんがトキソプラズマに初感染した場合の影響は?

妊婦さんが初めてトキソプラズマに感染しても、妊婦さんに顕著な症状が出ることはあまりありません。問題は、胎児への影響です。妊娠中の初感染は、早産や流産につながるケースもあります。

また、生まれてくる赤ちゃんに影響が及んだ場合、以下のような先天性トキソプラズマ症の症状を引き起こす可能性があります。

・脳の障害:水頭症、脳内石灰化など

・眼の障害:視力障害、網脈絡膜炎(もうみゃくらくまくえん)など

・その他:精神・運動機能障害、黄疸、貧血、血小板減少、肝機能障害など

また、生まれた時点では症状が見られなくても、成長するにつれて異常があらわれることもあります。

先天性トキソプラズマ症発生の確率

今のところ、日本での先天性トキソプラズマ感染児の発生は、地域によってバラつきがあり、10,000分娩あたり0.9〜2.6人と推計されています 。

胎児がトキソプラズマに感染した際に生じるリスクは、妊婦さんがいつトキソプラズマに初感染したかによって異なります。

妊婦さんの初感染時期と胎児への感染率と症状の度合いをまとめると以下のようになります。

・妊娠14週以前に初感染

胎児への感染率は10%以下で、流産や早産、死産に至るほか、症状があらわれた場合は、重症の傾向にあります。

・妊娠15〜30週に初感染

胎児への感染率は約20%で、感染していても症状があらわれないか、軽度の傾向にあります。

・妊娠31週以降に初感染

胎児への感染率は60〜70%で、感染していても症状があらわれないか、軽度の傾向にあります。

なお、妊婦さんがトキソプラズマに初感染してから胎児に感染するまでの期間は、数ヶ月とされています。そのため、妊娠の6ヶ月以上前の初感染であれば、胎児への影響はないと考えられています。

トキソプラズマの抗体検査方法は?

トキソプラズマに感染したことがあるかどうかは、妊娠初期に行われる血液検査の際に、血液中のトキソプラズマ抗体を調べればわかります。

・検査結果が陰性

抗体を持っていないため、出産までトキソプラズマの感染を予防する必要があります。

・検査結果が陽性

さらに詳しく調べる検査を行って、トキソプラズマに初感染したのはいつ頃なのかを推定することになります。

トキソプラズマの抗体検査は、すべての医療機関で実施されているわけではありません。ちなみに過去の調査(厚生労働研究班が2011年を対象期間として行った全国の産科施設へのアンケート)によると、トキソプラズマ抗体の検査を行っているのは、全国の産科施設のうち48.5%です。

この検査に対する厚生労働省の位置付けは、「やってもやらなくても良い」とされるレベルに留まっており、検査は任意(自費/1,000〜3,000円程度)で受けることになります。

医療機関によっては、「トキソプラズマ抗体の検査をしますか?」と確認しないこともありますので、検査を希望する際は積極的に申し出ましょう。

トキソプラズマ症の治療方法

妊娠中に初めてトキソプラズマに感染した場合は、状況に応じて治療を行います。治療方法は、妊婦さんが「いつ頃初感染したか」「どんな検査を行って、どのような結果が出たか」などの情報を元に決められます。

妊婦さんのトキソプラズマ初感染治療薬として一般的なのが、2018年9月に発売された保険適用薬のスピラマイシンです。

薬を服用することで、胎児への感染を100%防げるというわけではありませんが、胎児に及ぼす障害のリスクを軽減できることは実証されています。

トキソプラズマ症の予防方法

トキソプラズマ症を予防するには、次のような点に注意しましょう。

食事からの感染予防

・肉類は、しっかり加熱調理する

妊娠中は、十分に加熱調理されていない肉を食べるのを控えましょう。トキソプラズマだけでなく食中毒を引き起こすリスクもあります。

・生肉は食べない

ユッケ、生ハム、生サラミ、タルタルステーキ、馬刺し、鳥刺しなどは食べないようにしましょう。

・ジビエ料理に注意

ジビエには、一般で流通している食肉とは抗体が別タイプのトキソプラズマに感染するリスクがあります。

・殺菌されていないミルクやそれらを使った乳製品に注意

トキソプラズマは、初感染した家畜の乳にも混じる可能性があります。また、他の細菌に感染するのを防ぐためにも、しぼりたての牛乳もしくは牛以外の乳を妊婦さんが飲むのはやめましょう。それらの乳を使った乳製品(生チーズなど)も同様です。

・野菜や果物はよく洗う、もしくは皮をむいて食べる

野菜や果物には土や泥が付着していることがありますので、しっかり洗って食べるようにしましょう。

・調理器具や食器、手指を清潔にし、生肉に触れる際は手袋を着用する

肉に混在したトキソプラズマに触れるリスクを減らすだけでなく、食中毒や他の細菌に感染するリスクも軽減できます。

環境面での予防法

・キッチンや食卓にペットを近づけない

猫はもちろんですが、それ以外の動物も注意が必要です。たとえば犬が散歩の際に触れた土にトキソプラズマが混在している可能性も否定できません。あまり神経質になってもいけませんが、ペットが食品に接触する環境を作り出さないようにしましょう。

・自分はもちろんのこと、家族全員が適切な手指の洗浄を行う

日頃から手指の洗浄を習慣化しておくことは、トキソプラズマ以外の感染症を予防することにもつながります。

・ガーデニングや砂遊びなどの際は手袋を着用し、終わったらしっかり手指の洗浄を行う

トキソプラズマは、土の中にも存在します。庭や公園の砂場には、外猫がフンをしている可能性もありますので、直接触れないようにしましょう。

・水にも注意

川の水、井戸水などにもトキソプラズマがいる可能性があります。飲料だけでなく、洗浄に使うのも控えましょう。

猫だけでなく、犬の散歩後のやフンの始末も注意を払うようにしましょう。

妊婦さんが猫と接する際の注意

「普通に飼っていれば、子猫の時に感染するから、大人の猫はトキソプラズマの心配はない」「獣医さんで調べてもらったら、うちの猫は未感染だったから、妊婦さんが触っても安心」などという人もいますが、これは大きな誤りです。

なぜなら、妊婦さんが注意しなければいけないのは、既にトキソプラズマに感染した猫よりも、まだ感染していない猫だからです。

オーシストについての説明でも述べましたが、猫のフンに混じってトキソプラズマが排出されるのは、猫がトキソプラズマに初感染した後の一定期間(だいたい数日〜3週間)だけです。ということは、それ以外の期間の猫(既にトキソプラズマに感染し、オーシストを排出し終わった猫)は、安全であると判断できます。

猫がトキソプラズマ抗体を持っているかどうかは、獣医さんで検査をすればわかります。ただし、抗体を持っていたとしても猫がいつトキソプラズマに初感染したのかまでは判別できません。また、いつどのタイミングでトキソプラズマ(オーシスト)を排出し始めるのかも予想できません。さらに、重度の免疫不全に陥った猫はオーシストを2回以上排出する可能性があると考える研究者もいます。

このようなことを考え合わせると、「妊娠を望む女性と妊婦さんすべてが、トキソプラズマの感染を予防すべき」と言えるでしょう。

最後に改めて、トキソプラズマに感染するのを防ぐために、妊婦さんが猫と接する際、どのような点に注意すれば良いかをまとめておきましょう。

猫と接する際の注意点

・妊娠の半年前〜妊娠中は新しく猫を飼わない

新たに猫を飼うことは、新たなリスクを増やすことになります。猫好きさんにはつらいかもしれませんが、子猫、大人の猫ともにこの時期は避けましょう。

・猫の世話は妊婦さん以外が行う

もし、自分でフンの始末をしなければいけない場合は手袋を着用し、処理後はしっかり手指の洗浄を行いましょう。フンと一緒に排出されたトキソプラズマが感染力を持つまでには約1〜5日かかるため、できるだけすぐに始末をしましょう。

・外猫には触れない

どの猫が感染済みで、どの猫が感染していないかを見分ける方法はありませんので、リスクを回避するにためは、外猫には触れないようにしましょう。

・飼い猫は外に出さない

猫が外でどんな環境に触れるかを100%監視することはできませんし、監視できたとしてもトキソプラズマの感染を完全にブロックすることは、不可能です。他の病気を防ぐためにも、猫は完全室内飼いにしましょう。

・猫には、生肉を与えない

手づくりのフードに生肉を用いることもあるようですが、トキソプラズマ感染の危険性はすべての生肉にあります。生ハムなど十分な加熱調理がされていないものも同様です。妊婦さんが避けるべき食品は、猫にも与えないようにしましょう。

あいまいな情報に惑わされると、必要以上に心配したり、無防備になり過ぎたりします。大切なのは、トキソプラズマに関する正しい知識を身につけて、しっかり予防することです。

取材・文/干場綾子

出典:国立感染症研究所ホームページ

※本記事の画像は、記事テーマと関係がないイメージ画像です。

監修
楠木総司(くすのき そうし)先生
あらかわレディースクリニック院長
平成16年順天堂大学医学部卒業、医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本婦人科腫瘍専門医、日本産科婦人科学会内視鏡技術認定医、日本性感染症学会認定医。2019年6月にオープンした東京・町屋の「あらかわレディースクリニック」は、妊娠・出産だけでなく産後ケアによるママと赤ちゃんのサポートも行っています。また、婦人科疾患に対する腹腔鏡手術も備えた産科・婦人科施設です。

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