【厚生労働省&産婦人科医に聞きました】20~30代女性に「梅毒」が流行中?妊婦健診の検査だけで大丈夫!?

 専門家監修
公開日:2019/06/23
更新日:2019/06/29
【厚生労働省&産婦人科医に聞きました】20~30代女性に「梅毒」が流行中?妊婦健診の検査だけで大丈夫!?
監修
川名 敬 先生
日本大学医学部附属板橋病院 産婦人科部長

「梅毒」という言葉、妊婦定期健診の検査項目で初めて目にした、という人も多いかもしれません。梅毒は性感染症のひとつで、妊娠初期の妊婦定期健診の検査項目に必ずあります。でも、「検査結果はマイナスだったし、自分には関係ない…」と思った妊婦さん、梅毒そのものは関係ないかもしれませんが、梅毒の検査について考えることが、実はママと赤ちゃん両方にとって、とても大事な意味があるのです。その意味について、厚生労働省と産婦人科のドクターにお話を伺いました。

梅毒は過去の性感染症?

梅毒は性感染症の一つだということまでは知られているかもしれませんが、一般的にはあまりよく知られていません。少し知っているという人でも、梅毒は過去のもの、医療がまだ行き渡っていなかった時代の性産業の中で流行った病気、という印象が強いかもしれません。

ところが、この梅毒が最近流行っています。しかも20~30代の若い女性でかかる確率が急増しているというのです。梅毒とはどんな病気なのでしょうか。その流行の様子と、病気そのものについて、厚生労働省健康局の井口豪さん、原澤朋史さんに聞きました。

梅毒とはどんな病気?

「梅毒は性感染症の一つで、トレポネーマ・パリダムという細菌によってうつります。感染したときの初期の症状としては、外性器の周辺にコリコリした小さなしこりがあらわれます。しこりは赤みを帯びていて、これがやがて潰瘍(かいよう)になりますが、痛みがほとんどないことが特徴です。また、脚の付け根のリンパ節が腫れますが、これも数週間から3カ月ほどでおさまります。

その後、手のひらや体に赤い発疹が出て、さらに放置すると皮膚や筋肉、骨に腫瘍(しゅよう)ができ、最終的には中枢神経や大動脈にも影響が出て、髄膜炎や心不全などで死に至ることがあります。症状が出るまでの期間はまちまちで、感染してから3週間ほどで出ることも、数年、数十年たってから出ることもあります。

現代では、血液検査で梅毒に感染しているかどうかはすぐにわかり、抗生物質を投与することで完治できます。風邪などほかの感染症で処方された抗生物質で菌が消えることや、まれに自然に治ることもあります。

梅毒は早く発見できて正しく治療すれば、すぐに治る病気です。ただ、風疹のように一度かかったら一生かからない病気ではなく、何度も繰り返しかかる病気です。」

どんな人が梅毒にかかりやすいの? 

「梅毒はセックスによって感染するため、コンドームを使わないセックスを行うことでうつります。一般的には男性に多く、特に男性同士の間でのセックスによる罹患率が高いというデータがあります。これは避妊する必要がないためコンドームを使用しないから、ということが理由として考えられます。

ただ、近年では異性間のセックスでも感染が増えていて、男性の罹患率はそれほど増えていないのに対して、特に20代前半の女性の感染が急増していることが問題となっています。女性の場合、外性器が自分では見えにくいため小さなしこりなどに気づきにくく、初期症状で痛みなどがないため、見過ごされがちということもあります。」

もし、梅毒検査の結果がプラスだったら?

「妊婦健診の検査を受けて、もし梅毒に感染していることがわかったら、治療は自分だけでなく、パートナーも一緒に完治することが重要です。どちらかが治療しないままで菌を持ち続けていたら、ピンポン感染といって何度でも感染させ合い続ける可能性があるからです。

こうしたことは隠しておきたいと思うかもしれませんが、大事なことは感染から赤ちゃんを守ることです。これから生まれる命を守るためには何が必要なのかを考えてほしいと思います。病気は人格とは関係ありません。」(井口豪さん、原澤朋史さん)

[産婦人科ドクターに聞きました]妊婦さんが梅毒にかかるとどうなるの?

20代の若い女性に増えているとなると、妊娠との関係が心配されます。日本大学医学部の川名敬先生にお話を伺いました。

川名 敬 先生
東北大学医学部卒業。国内の医療機関での活動のほか、厚生労働省やWHOでの働きなどを経て、東京大学医学部産科婦人科学准教授、日本大学医学部産婦人科学系産婦人科学分野主任教授となる。

先天性梅毒症候群、赤ちゃんはどうなる?確率は?

「妊婦さんが梅毒に感染していると、細菌は胎盤を通過して、赤ちゃんに感染します。妊娠のごく初期にすでに感染している場合は、流産する可能性が高くなります。妊娠中の治療は、通常と同じく抗生物質を使って治しますが、放置すると約40%の胎児は死亡すると言われています。もし、治療しないままで誕生したとしても、赤ちゃんは先天性梅毒症候群になり、奇形などの可能性も高くなります。

先天性梅毒症候群を防ぐため、妊娠初期の血液検査の項目には梅毒があります。妊娠初期の段階で梅毒がわかったとしても、適切な治療をすれば、赤ちゃんへの影響は小さく済みます

日本で先天性梅毒症候群の赤ちゃんが生まれる数は、2013年4例、2014年10例、2015年13例、2016年14例でした。3年間で3.5倍になっているので、たしかに増加しています。ただし、年間出生数が100万人を切っているとはいえ、全分娩のうち14例というその確率は非常に少ないものです。

ただそれは、日本の大多数の妊婦さんがきちんと妊娠初期に妊婦健診で血液検査を受け、その結果として梅毒で陽性になったとしても適切な治療を受けた……という証しでもあります。妊婦さんたちが命を宿している責任と自覚を持って健診を受けたからこそ、赤ちゃんに影響が出ることはなかったのです。問題なのは、妊婦定期健診を受けていない「未受診妊婦」の赤ちゃんが梅毒に感染している、という一部の妊婦さんの存在です。ごく少数とはいえ、赤ちゃんに影響が出てしまったということはやはり見過ごすことができない現実といえるでしょう。」

早目に、そして定期的な妊婦健診は赤ちゃんへの様々な影響を減らす!

「梅毒を持っている妊婦さんが、妊婦健診をまったく受けないまま、妊娠経過が進んでしまうと、治療が間に合わなくなり、結果的に流産したり、先天性梅毒症候群の赤ちゃんが生まれることになります。また、妊娠初期に検査を受けていても、その後の妊婦健診を定期的に受けていなかったりすれば、手遅れとなる可能性があります。

妊娠に気づいていない、あるいは、気づいていても妊婦健診を受けていない場合、梅毒を調べる検査を受けるタイミングも治療も遅くなるわけですから、梅毒は進行し、赤ちゃんへの影響も大きくなるというわけです。

逆にいえば、妊娠初期に検査を受けて陽性だったとしても、そのあと処方された薬をきちんと服用しさえすれば梅毒は治るわけです。早くわかって早く治せば問題ないのです。」

ほんとうは梅毒だけじゃない、出産までに治したい・治せることがたくさんある!

「梅毒ではなかったとしても、母子ともに健康を損なうことになる疾患・症状は、ほかにもたくさんあります。

妊娠しているのに妊婦健診を受けずにいることは、おなかの赤ちゃんを虐待していることにほかなりません。妊婦健診に行かない理由の中に貧困の問題は大きいかもしれません。でも、もしかすると『特に体調が悪くないので』という理由から妊婦健診を受ける必要性を感じていなかったり、健診をパスしてしまったりしてしまうことがあるかもしれません。そのことが大きな問題なのです。

母体が性感染症にかかっている場合、産道感染といって出産時に胎児に菌やウイルスが感染することが多くあります。性器ヘルペス尖圭コンジローマクラミジアなどがそうです。その場合は、出産直前の診察でわかれば、抗生物質の投与や帝王切開といった適切な医療処置をすることで感染を防ぐことができます。これについても、やはり妊娠中の定期健診を受けずに出産となってしまった場合、非常にリスクが大きくなります。」(川名先生)

妊娠は病気ではありませんが、妊娠中は免疫力が低下しやすいことから、いつでも病的な状態になりうる状態ですし、また、妊娠中の体の状態は刻々と変わります。たしかに梅毒はそれほど身近な病気ではないかもしれません。でも、この記事を読む妊婦さん全員に「妊婦健診を受けることの大切さ」を改めて考えてみてほしいのです。

取材協力/厚生労働省 健康局 
参照文献/国立感染症研究所
取材・文/関川香織

監修
川名 敬 先生
日本大学医学部附属板橋病院 産婦人科部長
東北大学医学部卒業。国内の医療機関での活動のほか、厚生労働省やWHOでの働きなどを経て、東京大学医学部産科婦人科学准教授、日本大学医学部産婦人科学系産婦人科学分野主任教授となる。
日本大学医学部附属板橋病院

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