【産婦人科医監修】胎児性アルコール症候群の赤ちゃんへの影響や症状って?

 専門家監修
公開日:2018/11/29
更新日:2018/12/18
【産婦人科医監修】胎児性アルコール症候群の赤ちゃんへの影響や症状って?
監修
竹内正人先生

胎児性アルコール症候群は、妊婦さんの飲酒が原因で起こる赤ちゃんの先天的な病気です。妊娠中に「ほんの少しなら」と、ついお酒に手を伸ばしたくなることがあるかもしれませんが、アルコールは赤ちゃんに悪影響を及ぼしてしまうのです!

胎児性アルコール症候群とは?

初診のとき、妊娠前の飲酒の有無や頻度について、問診で聞かれたり、問診票に記入したりした妊婦さんは多いでしょう。これは、「胎児性アルコール症候群(Fetal Alcohol Syndrome:FAS)」といって、妊娠中の女性が習慣的にお酒を飲むと、生まれてくる赤ちゃんの発育が遅れたり、特徴的な顔つきになったりするおそれがあるからです。
しかも、妊娠中のアルコールの影響は、乳幼児期だけではありません。学童期に入ってから発達障害が現れたり、成人してからうつ病を発症したりするなど、子どもの将来にまで影響を及ぼしてしまうのです。
妊娠中のアルコール摂取が、長い期間にわたって子どもの病気や障害を引き起こす可能性あることから、これらを総称して「胎児性アルコール・スペクトラム障害(Fetal Alcohol Spectrum Disorders:FASD)」と呼んでいます。

胎児性アルコール症候群の確率は?

日本の胎児性アルコール症候群の発症率は、1990年ごろに行われた調査によると1,000人あたり0.1人以下とされています。ただし、その後の調査結果はなく、正確な発症率はよくわかっていません。
日本での胎児性アルコール症候群は、大量のアルコールを習慣的に飲んでいる妊婦さんにみられることが多く、アルコール依存症と診断されている妊婦さんを除けば、ほとんどの妊婦さんが妊娠を機に飲酒をやめているといわれています。

一方、アメリカでは1,000人あたり0.2~2人、フランスでは1,000人あたり0.5~3人という調査報告があります。日本と比べると、かなり発症率が高いですね。アメリカでは妊娠中に飲酒のリスクがある女性に対して、予防プログラムが開発され、胎児性アルコール症候群の発症率を下げる活動が行われています。

日本でもアルコールを楽しむ若い女性が年々増えてきていることから、胎児性アルコール症候群も増えていくのではないかと懸念されています。
2004年、酒造メーカー団体は、「妊娠中や授乳期の飲酒は、胎児・乳児の発育に影響するおそれがありますので、気をつけましょう」などと、妊娠中の飲酒への注意を促すようにしました。

胎児性アルコール症候群の原因は?

妊娠中にママの口から入ったものは、胎盤を通して赤ちゃんに送られます。胎盤にはフィルターのような役割があり、ウイルスなどの有害物質が送られてくると、それらをシャットアウトします。ところが、アルコールはそのまま胎盤を通過し、胎児に移行してしまいます。胎児の肝臓は未熟なため、アルコールの処理ができません。そのため、胎児の体内にいつまでもアルコールが残り、胎児性アルコール症候群を引き起こすのではないかと考えられています。妊婦さんが「少しだけ」と飲んだお酒でも、おなかの赤ちゃんにとっては大きな負担になりかねないのです。

胎児性アルコール症候群の症状は?

胎児性アルコール症候群には、大きく分けて3つの症状があります。

発育の遅れ

ママのおなかにいるときから低身長、低体重で、生後も発育が遅れます。また、心臓や外性器の奇形、手足の関節の異常などが現れることがあります。

中枢神経の障害

発達障害(学習障害、コミュニケーション障害など)、行動異常、小頭症(脳の発育が阻害され頭が極端に小さくなる病気)などが現れることがあります。

容姿の影響

次にあげるような顔つきになることがあります。
・全体的に平たい顔つき
・小さいあご
・小さく低い鼻
・小さい目
・耳がうしろにそり返り、普通より低い位置にある
・鼻と上唇の間(人中)の溝が浅い
・薄い上唇

これらの症状は、妊婦さんがアルコールを飲んでいた時期によっても違いがあります。赤ちゃんの器官がつくられる妊娠初期にアルコールを飲んでいた場合は、特徴的な顔つきや奇形などの症状が現れるリスクが高くなります。一方、妊娠中期・後期では発育の遅れや中枢神経障害が現れるリスクが高くなります。
さらに、生れたときは健康上の問題がない場合でも、成長するうちに軽度から中等度の発達障害や運動障害などの可能性が指摘されています。

胎児性アルコール症候群になる飲酒量はどのくらい?

では、どのくらいアルコールを飲んだら、胎児性アルコール症候群になるのでしょう。妊娠中でも、少しの飲酒なら問題ないのかどうか、気になりますね。
実は、「この程度なら妊娠中に飲酒してもかまわない」という量は、医学的に明らかになっていません。
妊婦さんの1日のアルコール摂取量が60~75ml以上になると、胎児性アルコール症候群がみられるという報告がありますが、量だけではなく、飲酒の期間、妊婦さんの栄養状態、遺伝的な素因にも影響されるため、安全な飲酒量はわからないといわれています。

近年、アメリカの小児科学会は、妊娠中の飲酒について警告を出しています。その警告書にも、「飲酒の量、妊娠のどの時期に飲酒したか、酒の種類については用量の安全域や安全な期間は存在しない」としています(警告書では、350mlのビール缶1本分を1単位として、この4倍を超える場合を過量飲酒としています。過量飲酒は、胎児性アルコール・スペクトラム障害のリスクを増加させますが、仮に350mlのビールを1本分飲んだとしても発症のリスクがあるとしています)。

ですから、食前酒程度に少量飲む、アルコール濃度の低いお酒を選んで飲む、食事と一緒にゆっくりと時間をかけて飲む、などのアルコールの影響が少ない飲み方をしても、アルコールが妊婦さんの体に入り、おなかの赤ちゃんに影響を及ぼしかねないという事実は変わらないのです。

妊娠超初期の飲酒! 胎児性アルコール症候群が心配

妊娠していると知らずにお酒を飲んでしまったら、赤ちゃんに影響があるかどうか心配になりますね。

着床が完成して、妊娠が判明し始める生理予定日ごろまでに摂取した成分は、胎児への影響は少ないといわれています。ただし、妊娠中の飲酒は、量や時期についてどのくらい影響するのか解明されているわけではないため、一概に「妊娠に気づく前なら、お酒を飲んでも問題ない」とはいえません。妊娠がわかった時点で、すぐに飲酒はやめましょう。

妊活中の人も、できれば妊娠前から禁酒をしたほうが安心です。また、妊娠中にお酒を飲んでいて、あとから危険性を認識した人は、早急に禁酒して、リスクを最小限に抑えましょう。

妊娠中はノンアルコール飲料ならOK?

最近、いろいろなノンアルコール飲料が出回っています。アルコールが入っていない飲み物なら妊娠中に飲んでも大丈夫だろうと思うでしょう。

でも、ここで注意が必要です。市販の飲み物は、含まれるアルコールが1%未満であればノンアルコール飲料と表示できます。ですから、アルコールを飲んでいないつもりでも、実は飲んでいたということも! 必ずラベルを見て、アルコール0.00%と記載されたものを選びましょう。

また、ノンアルコール飲料には糖質量が多いものや、人工甘味料などの添加物を多く含むものもあります。とりすぎには十分注意しましょう。

産後の授乳中も注意して!アルコールは母乳にも移行する

産後の授乳にも、アルコールは影響を与えます。ママが摂取したアルコールは血液中に含まれるため、赤ちゃんにもアルコールを飲ませることになります。また、飲酒はプロラクチン(母乳を促すホルモン)の分泌を抑制して、授乳の分泌量を低下させてしまいます。妊娠中に禁酒した分、産後はお酒が飲みたくなるかもしれませんが、卒乳まで飲まないようにしましょう。

ただし、母乳中のアルコール濃度は飲酒後2時間をピークに、その後低下していきます。ママがお酒を飲むならば、飲む前に搾乳して冷凍しておくか、飲んでから2時間以上あけて授乳しましょう。

胎児性アルコール症候群の治療は?予防法はある?

胎児性アルコール症候群は完全に治すことができません。「妊娠中にアルコールを飲まないこと」が唯一の予防法です。つまり、妊婦さんがお酒を飲まなければ、100%予防をすることが可能なのです。

2010年の厚生労働省の調査によれば、妊娠中に飲酒した経験のある妊婦さんの割合は8.7%でした。妊娠中は、「ストレスを解消するためにお酒を飲みたい」と思うときがあるかもしれません。でも、赤ちゃんの健康のために、妊娠中から卒乳するまで飲酒はやめましょう。

取材・文/小沢明子

監修
竹内正人先生
⽇本医科⼤学⼤学院修了。⽶国ロマリンダ⼤学留学を経て、葛飾⾚⼗字産院などに勤務。
よりやさしい「⽣まれる・⽣きる」をサポートするため、国や地域、医療の枠をこえて活動する⾏動派産科医。

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